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火星の長さ1,800 kmの雲は、塵なしで生まれるのかもしれない

雲には種が必要だ。地球でも火星でも、水蒸気はふつう、空気中にすでに漂っている微小な粒子の上に凝結して水滴や氷晶になる。これを不均一核生成(heterogeneous nucleation)という。理論的には、種がまったくなくても、水蒸気から直接結晶ができることもある。これが均一核生成(homogeneous nucleation)だ。ただし、それには途方もない過剰な湿度が必要になる。地球では実際の大気条件では不可能と考えられている。火星では飽和比が約10万必要で、豊富な塵が先に水蒸気を吸い取ってしまうため、手の届かない値とされてきた。

パリの気象力学研究所(Laboratoire de Météorologie Dynamique)とLATMOSの研究チームは、ある奇妙な火星の雲がその逆を示していると主張する。

火山から伸びる雲

アルシア山の細長い雲(Arsia Mons Elongated Cloud)は、火星の砂塵シーズンの一時期に、毎朝、アルシア山の西側の山腹、高度約45キロメートルに現れる。日の出とともに出現し、3時間で急速に伸び、やがて火山から切り離される。最盛期には風に引き伸ばされて長さ1,800キロメートルに達することもある。

これまでにいくつかの説明が提案されてきた。斜面を吹き上がる風が水を運ぶという説や、大気の波が冷たい空気だまりをつくるという説だ。しかし、その細く長い尾を再現できたものはなかった。

山の上の冷たい空気だまり

J・エルナンデス=ベルナル(J. Hernández-Bernal)、A・マーッタネン(A. Määttänen)、A・スピガ(A. Spiga)、F・フォルジェ(F. Forget)は、解像度10キロメートルの火星気象モデルでこの地域をシミュレーションした。標準的な雲の物理では、モデルは失敗する。尾ができないのだ。ただしモデルは、火山が引き起こす波を生み出し、その波が火山の西側の広い範囲を冷やす。

西斜面の小さな**「中心の冷たい空気だまり」(core cold pocket)、まさに実際の雲が生まれる場所では、空気が数キロメートル持ち上げられ、800秒間にわたって毎秒0.05度ずつ冷え、130ケルビンを下回る。そこでは湿度が飽和の約10万倍に達する。こうした条件で、別の微物理モデルは、水蒸気から直接1立方センチメートルあたり数百個の氷晶**ができることを示している。

火星の3つの画像。白い筋のある実際の画像と2つのシミュレーションで、筋が見えるのは2つ目のシミュレーションだけ。

A:マーズ・エクスプレスがとらえた雲。B:塵を核にする通常の氷の形成によるシミュレーション。尾はできない。C:水蒸気から直接できる氷を加えたシミュレーション。尾が現れる。— 図1、Hernández-Bernal et al. (2026), arXiv:2609.37259.

尾はなぜこれほど長いのか

モデルに加えると、塵なしでできる氷は雲を再現する。その誕生、尾、頭部の縮小、そして冷たい空気だまりが消える朝の遅い時間に起こる火山からの切り離しまでだ。長さの説明はエレガントである。新しくできた結晶は、周囲の空気とつり合うまで成長する。その周りの空気は過飽和のままだ。雲をつくるには塵が少なすぎるからである。すでにつり合いに達している尾は、風に運ばれながらも安定したままでいられる。

シミュレーションした雲の厚さと粒子の大きさ(約0.25マイクロメートル)は観測と一致する。ただし、まだ合わない数字もある。シミュレーションした雲は幅が30〜50%狭く、現れるのが約1.5時間遅く、切り離される前の最大の長さは実際の約4分の1しかない。チームは別の可能性、つまり非常に細かな塵の粒子の上に氷ができる場合も試したが、得られたのは広がったもやだけで、くっきりとした尾は一度もできなかった。

注意書きつきの原稿

arXivに投稿された版は異例のものだ。著者ら自身が冒頭で、これは査読前の原稿であり、「査読の過程で修正された既知の誤りや不正確な点を含む」と明記している。査読を経てNature Geoscienceに受理された版は、より慎重なタイトルになっている。雲は均一核生成を「実証する」のではなく「示唆する」とされているのだ。改善された原稿は、6か月間は自由に共有できない。

この結論が正しければ、教科書で教えられながら純粋に理論上のものと考えられてきた過程が、惑星の大気の中ではたらいている姿を初めてとらえられたことになる。著者らは今後、それが火星のほかの場所でも起きているのか、さらには地球の高層大気にもひそんでいるのかを知りたいと考えている。

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