土星の衛星はタイタンの氷からできた?
土星の系には2つの奇妙な点がある。大きな衛星のひとつイアペトゥスは、異常なほど氷が多い。太陽系外縁部の大きな氷天体、クワオアー、冥王星、トリトンと比べると、岩石に対する水の割合がはるかに大きい。クワオアーはイアペトゥスより小さいのに、密度はずっと高い。そして土星の巨大な衛星タイタンは、予想よりも引き伸ばされた軌道をたどっている(現在の離心率は0.029)。
タイタンは土星から約120万キロメートルの軌道を回り、イアペトゥスは約360万キロメートルだ。
ひとつの衝突で2つの謎?
サンノゼ州立大学のイグナシオ・モスケイラ(Ignacio Mosqueira)は、2005年にP・R・エストラーダとともに提案したアイデアを検証している。タイタンへの巨大衝突だ。衝突によってタイタンの外側のマントルから氷が吹き飛ばされ、土星のまわりの遠い軌道に乗り、そこで集まってイアペトゥスになったのかもしれない。同じ一撃が、タイタンの軌道を引き伸ばしたのだろう。
このシナリオは「当て逃げ」型の衝突の考え方を借りている。この考え方は、水星の大きすぎる鉄の核を説明するのにもすでに使われている。衝突天体の岩石の核はそのまま飛び去り、マントルからはぎ取られた氷があとに残るのだ。
シミュレーションが示すこと
この研究では、土星の重力を含めた3次元の衝突シミュレーション(ローレンス・リバモア国立研究所のSpheralコードを使用)を行い、その後、破片を数日、数年、最長50年にわたって追跡した。どちらの天体も岩石の核と氷のマントルをもつ。
シナリオ1:土星の系の外から来た衝突天体。 タイタンの10分の1の質量の天体が、秒速10 kmで斜めに衝突する。
- 5日後、イアペトゥスの約3.5倍の質量の破片が土星に束縛されたまま残り、その83 %が氷である。
- その氷の95 %はタイタンのマントルに由来する。
- 氷のサンプルのひとつは、イアペトゥスの距離を超える軌道をたどる。
- 衝突天体の岩石の核は、永久に土星から逃げ去る。
- タイタンの軌道離心率は約0.13に跳ね上がる。
シナリオ2:すでに土星を回っていた伴天体。 タイタンの4分の1の質量の天体が、45°の角度、秒速約3.7 kmで衝突する。
- イアペトゥスの0.60倍の質量の氷を放出する。
- その岩石の核はタイタンをかすめて通り過ぎ、ある計算では6.9年後に戻ってきてタイタンに衝突する。合体後、タイタンの離心率は約0.10になるだろう。
著者が述べる限界
これらは低解像度の**「パイロット」シミュレーション**で、イアペトゥス1個分の質量あたりわずか約27個の粒子しかない。破片の大きさは分解されておらず、収束することも示されていない。戻ってくる時期は数値設定に左右される。
何より、シミュレーションの中でイアペトゥスはできない。 氷は非常に細長い軌道に乗り、その軌道はまだタイタンの通り道と交差している。イアペトゥスの距離で円軌道に落ち着くには、67〜86 %多い角運動量が必要だ。残っていたガスや破片の円盤が、軌道を減速させて丸くすることで、それを与えられるかもしれない。その段階はモデル化されていない。タイタンの現在の離心率もシミュレーションの値より低いので、後からの減衰も必要になる。
成り立つこと、示すべきこと
シナリオの最初の段階は成り立つ。衝突によって、イアペトゥス数個分の氷の貯蔵庫ができ、その大部分はタイタンからはぎ取られたもので、同時にタイタンの軌道も引き伸ばされる。残り、つまりイアペトゥスを組み立て、その軌道を円くすることは、まだ示されていない。著者はまた、残ったガスの円盤が、氷でできた内側の衛星や環など、土星の系のほかの特徴を説明するかもしれないとも示唆している。これらはアイデアであって、結果ではない。
