19秒対スーパーコンピューターの1世紀
量子優位性とは、どの古典的スーパーコンピューターも妥当な時間内に終えられない課題を、量子コンピューターがこなせると示すことだ。標準的な試験はランダム回路サンプリングである。数十個の量子ビットに、ランダムに選んだ量子ゲートを次々にかけ、最後に測定する。結果は0と1の文字列の流れで、ある確率分布から引き出されたものだ。古典コンピューターがこの分布を再現するのは、とてつもなく難しい。
重要な点がある。この課題には実用的な使い道がない。 これはベンチマーク、つまり生の計算能力を測るストップウォッチなのだ。
両陣営のレース
53量子ビットのSycamoreプロセッサーがレースの口火を切り、Zuchongzhi 2.0と2.1、67量子ビットのSycamore、83個の稼働量子ビットをもつZuchongzhi 3.0が続いた。一方で古典アルゴリズムも改良を続け、これらの実験を再現するコストを桁違いに下げてきた。だから、どの主張も、どの古典的課題と比べているのかを正確に示さなければならない。
これまで、こうした実証はすべて、その場のために入念に調整された専用の実験室マシンで行われてきた。
クラウドで借りたプロセッサー
スタートアップBlueQubit(サンフランシスコ)のチームは、EPFLとXPRIZE財団の同僚とともに、IBM Nighthawk r2プロセッサーを使った。12 × 10の正方格子に並んだ120個の超伝導量子ビットをもつ。彼らはIBMの標準ツールQiskitを使い、クラウド経由で、特別な較正なしにアクセスした。著者らはIBMの所属ではない。IBMのスタートアップ・プログラムを通じてマシンを使っており、その見解はIBMのものではないと述べている。
使ったのは61量子ビットで、102個のカプラーでつながっている。3つの量子ビットは、較正データを理由に除外された。
結果を直接確かめることはできない。それこそが、古典コンピューターにできないことだからだ。そこでチームは、回路の忠実度について2つの独立した推定を用いた。
- 「ミラー」試験:回路を走らせ、次にその正確な逆回路を走らせ、量子ビットが出発点に戻るかどうかを確かめる。シミュレーションは不要だ。
- 「パッチ」試験:回路をシミュレーションできるほど小さな3つか4つの断片に切り分け、断片ごとに確かめる。
数字
- 2つの推定は、測定したすべての深さで一致した。
- 1サイクルあたりの忠実度は0.872で、第1世代のNighthawk r1の0.836を上回る。32〜40サイクル後には10倍以上よい。
- 基準点:36サイクル、918個の2量子ビットゲートで、忠実度は約0.0023。100万個のサンプルを19秒で収集した。
- 出力確率をひとつ古典的に計算するだけで約10²²回の演算がかかる。Frontierスーパーコンピューターで約2日だ。
- 同じ100万個のサンプルを古典的に生成するには、約1.2 × 10²⁷回の演算、Frontierで約110年かかる。
- 実験全体で使った量子コンピューターの時間は約11分。
- 知られている古典的な「ずる」、つまり回路を断片に切ってスコアをまねる方法は、測定されたスコアに少なくとも10倍届かない。
注意書き
110年というのは、ある特定の古典アルゴリズムについての推定であり、絶対的な限界ではない。メモリが無制限であると仮定しており、これは古典側に有利だ。ほかの方法、たとえば多くの確率にわたって計算を使い回す方法や近似シミュレーションは、コストを下げうる。そして著者らが書くように、このベンチマークの歴史を見れば、そのいくつかは実際にそうなるだろう。
誰でも再実行できるベンチマーク
著者らによれば、これは専門家でないほとんどのユーザーが再現できる、商用で広く利用可能なプロセッサーでの、標準的なランダム回路サンプリングにおける量子優位性の初めての実証である。回路、データ(100万個のサンプルを含む)、そしてコードは公開されている。
